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En du elsker 愛する人へ

デンマーク映画 (2014)

この映画は、2016年2月6-12日に開催されたトーキョーノーザンライツフェスティバル2016で、3回だけ上映された。撮影時50歳で、60歳のシンガーソングライターのトーマスを演じるのは、ミカエル・パーシュブラント(Mikael Persbrandt)。彼の創作を支えるスタジオ経営者のモリーを演じるのは、9歳年下のトリーヌ・ディルホム(Trine Dyrholm)。いずれも、デンマーク映画には欠かせない名優だ。私の大好きな映画『Hævnen(未来を生きる君たちへ)』(2010)では、別居中の夫婦を演じていて、2人の性格と関わり方は この映画と全く違っていた。この映画のトーマスは、悪性度の高い麻薬中毒を何とか乗り越えて世界的に有名な歌手になったものの、過去の記憶と孤独にさいなまれている偏屈な男。だから、ただ一人の娘の面倒なんか見たことがない。そして、その娘も麻薬に走り、それが祟って運悪く死んでしまい、11歳のノアが1人残される。親戚も誰もいない状態で、トーマスは最初の頃、箸にも棒にもかからないような無関心さでノアを扱うが、次第に祖父であることを自覚するようになる。一旦は、ノアを全寮制の学校に押し込んで責任を回避しようとするが、 考えを変え、彼の定住地のロサンゼルスで一緒に暮らすことに決める。原題の『En du elsker』は逐語訳で『One you love』、すなわち、『愛する人』。この “愛” の対象となる人物は、トーマスの作詞作曲を手伝ってくれるモリーではなく、彼の閉鎖的な心を開いたノア。日本では 一般公開もされず、DVDすら発売されなかった。とても残念なことだ。ここで、話は脱線するが、先に引用した『未来を生きる君たちへ』は私の大好きな映画の1つで、今回改めてこのサイトを見てみたら、サイト開設から6つ目に紹介した作品で、内容があまりにも簡単で、“将来改訂版を作るべき筆頭作” の1つになっていた。今のところ、改訂版の予定は、このサイトでの公開の古い順に『大好きだった人たち』、『未来を生きる君たちへ』、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、『ラスト・クリスマス』、『悪童日記』、『トースト/幸せになるためのレシピ』、『ジャック・ソード』、『我ら打ち勝たん』、『ボビー・フィッシャーを探して』、『タイムトラベラー/戦場に舞い降りた少年』、『「25ヒル」道路』、『ヴェネツィア』、『野生の馬との邂逅』、『ミミズ・フライの食べ方』。これを契機に、次回は、543本目ではなく、『未来を生きる君たちへ』を完全改訂版で紹介することに決めた。

ロサンゼルスに住んでいるデンマーク出身のシンガーソングライターのトーマスが、マネージャーのケイトと共に、久し振りに故郷の地を踏む。実は、この設定自体が、どこかおかしい。❶トーマスは自分のことを 「私はずっとクリーンだった〔麻薬をやめた〕。6年間」と言う。❷ケイトはトーマスに 「私は12年間 あなたをカバーしてきた、99年に立ち直らせてから」と言う。❸トーマスは、プロデューサーのモリーのことを、「彼女なしでは何もできない。私のカオスから秩序を創造してくれる。歌や曲のアイディアは1万でも思いつくが、彼女がいなければ1曲もできない」と絶賛する。この3つは、それぞれ矛盾を含んでいる。❶と❷では、6年の開きがある。トーマスは、6年前から麻薬をやめたのなら、それまでは麻薬中毒だったことになる。12年間に立ち直らせたとは、どういう意味なのか? ❸デンマークにいるモリーがいなければ、「1曲もできない」のなら、始終デンマークにいないとおかしいのに、ロサンゼルスに住み、如何にも久しぶりにデンマークを訪れたという設定は変なのでは? 彼は、デンマークにアパートすら持っておらず、今回の介在は、大きな館を借り切って滞在するが、言葉尻から、そこが初めての滞在先だと分かる。始終来ているのなら、決まった場所があっていいはず。トーマスには11歳の孫ノアがいるが、会ったのは初めてではないにしろ、実に久し振りといった雰囲気だが、なぜそんなに疎遠なのか? 以上のように、受け入れ難い問題点が山積しているのが、この映画の最大の欠点。それを甘受して、主としてノアの目線からストーリーを追うと、①母に連れられて館にいるトーマス(祖父)に会いに来て、そっけなくあしらわれる。②母が麻薬中毒で施設に入ることになり、母はトーマスの都合など無視してノアをトーマスに預けて去る。③トーマスは、ノアが邪魔なので、ギターでも弾いていろと言うが、あまりに下手なので弾き方を教える。④ノアの希望で母の療養施設に行ったトーマスは、娘のひどさに、ノアへの同情心が沸く。⑤母は施設から逃げ出してきてトーマスに諫められる。⑥ノアのギターは上達する。⑦ノアの腕に塗るクリームを取りに、母のマンションに行くと、そこに母の死体が横たわっていた。それを見たノアは虚脱状態になり、トーマスは自己嫌悪に陥る。⑧ノアの母の寂しい葬儀。⑨トーマスは 娘を死なせたことで心が乱れ 曲作りができなくなる。⑩12年間トーマスを支えてきたマネージャーは、トーマスに数ヶ月の休養を命じ、トーマスと大喧嘩になり、生まれて初めて頬を叩かれ、頭に来て去って行く。⑪トーマスは、ノアを全寮制の学校に放り込んで 束縛から逃れようとして、ノアから嫌われる。⑫しかし、ノアと一緒に学校の寮の部屋まで行ったトーマスは、そのあまりの無機質さに驚き、ノアをロサンゼルスに連れて行き、一緒に住むことにする。ノアは、トーマスが麻薬中毒になっている間、ずっと無視してきた娘(ノアの母)の代わりに、トーマスにとっての「愛する人」となり、母を失ったノアにとっては、祖父トーマスが「愛する人」となる。

11歳のノア役は、ソフス・ロノフ(Sofus Rønnov)。2001年1月10日生まれ。これが映画初出演。2作目の『Du forsvinder』(2017)では、3年後の公開にもかかわらず、もう子供らしさがなくなっている(右の写真、kino.dk)。この時は、この映画のモリー役の女優(主役)の息子役。この翌年にTVで放映された『Ham』というミニ・シリーズで、監督、脚本・編集を担当。「17歳で?」と、びっくりしてしまう。

あらすじ

60歳代〔トーマス役のミカエル・パーシュブラントは撮影時50歳なので、老けた役〕の世界的に有名なロックミュージシャン、トーマス・ジェイコブのソロ・リサイタルが、満員の聴衆を始まろうとしている(1枚目の写真)〔司会者が英語なので、アメリカ〕。場面はすぐに替わり、広大なエアポートの柵のすぐ横を走る車の後部座席にトーマスが座っている。窓からは海が見える。横に座っている女性が、スマホで誰かと話している。「はい、私たちは今 着きました」と報告している赤茶色は英語〕。電話が終わると、女性は、「これから家まで行き、少し休んで、2時にまた出かけます」とトーマスに伝える。そして、「デンマークに戻りましたね」と付け加える(2枚目の写真)〔今いる場所が、コペンハーゲンだと分かる〕。車は雪の積もった田舎道を走り、凍った池の前に建つ煉瓦の館の前に着く(3枚目の写真、ミュージシャンなので、別便で届けられた楽器も着いている)。映画の多くの場面は、この館の内外でロケ撮影されている。フュン島にあるHolstenshuusという館だ(4枚目の写真)〔1910年の大火後に再建/オーデンセの南約30キロ〕。トーマスが玄関から階段を上がっていくと、フィリピン人のハウスキーパーがたどたどしい大声で、「Tak〔ありがとう〕」と言って服を指さすので、コートを脱いで渡す。「居間とピアノ、そこ」「キッチン、そこ」。そして、部屋のドアを開け、「あなたの部屋、ここ」と言うと、さっさといなくなる。大きな館を借り切った割には、狭い部屋だ」。そこに、さきほどの女性(マネージャー)が来ると、「あなたには、お城とスタジオがあり、モリー(プロデューサー)、運転手、ハウスキーパーのピンポンがいます。TVショーは2時からで、30分あります」と教える。

そして、TVショーに出演したトーマスに、司会者は、「巨大なスター、シンガーソングライターのトーマス・ジェイコブがロサンゼルスから到着しました。彼は、私たちのために歌ってくれます」と前置きを言い、番組が始まる。「あなたは お金持ちで、有名人で、クリーンに戻り〔麻薬をやめた〕、新曲のレコーディングのために戻って来られた」と トーマスに話し始める〔かなり失礼な言い方〕。トーマスは、「私のプロデューサーがデンマークにいるからだ。彼女なしでは何もできない。私のカオスから秩序を創造してくれる。歌や曲のアイディアは1万でも思いつくが、彼女がいなければ1曲もできない」と、モリーを最大限称賛する(1枚目の写真)。司会者は、さらに脱線して 「あなたは、酒、離婚、麻薬なしで、悲恋の歌を創り続けられますか?」と、許されないほど失礼なこと訊く。怒ったトーマスは、「我々は、麻薬、酒、離婚じゃなく、音楽について話すことに同意した。もうウンザリだ」と言うが、懲りない司会者は 「私は、予測不能になるんです」と、謝りもしない〔たかがTVの司会者のくせに、何様のつもりだろう?〕。呆れたトーマスは 「私もだ」とインタビューを打ち切り、ステージに行って歌う(2枚目の写真)。帰りの車の中で、マネージャーは 「彼を殴らなくて良かった」と言う。「年を取った」。「あなたの娘さんから、メッセージが入りました〔スマホに〕。「えらく早いな。何が欲しいんだ?」。「あなたの娘なんだから、理由なんかなくても電話して構わないでしょ」。「それはどうかな」。「つまり…?」。「金だ」。

日曜になり、トーマスの1人しかいない子供(娘)が、11歳になるノアを連れて館にやってくる。娘とは何年ぶりに会ったのか分からないし、ノアとは初対面かどうかも分からないが、2人の前に座ったトーマスの態度は、まともな “父と祖父” とは思えない(1枚目の写真、矢印は、テーブルの上に乗せた足の指)。娘は、「私たち、TVを見たわ」と言い、ノアを向きながら、「ノアは、あなたがお祖父ちゃんだなんて素敵だって。彼、ギターも弾くのよ」と言い、2人してトーマスを見る(2枚目の写真)。トーマスは、何も言わないし、表情も変えない。娘は、さらに、「CDのレコーディング?」と訊き、トーマスは 「ああ。明日から始める」とだけ。「ロスから直接来たの?」、「ああ」。「じゃあ、時差ボケがあるわね」。「少し」。ノアの母は、トーマスと内緒話がしたいので、「あなたのCDに、お祖父ちゃんのサインが欲しいなら、取ってらっしゃい」と席を外させる。玄関の閉まる音が聞こえると、娘は、ストレートにお金を貸してくれるよう頼む。マンションを購入したので、必要なものを買うお金が足りないからで、金額は6万クローネ〔当時の約120万円〕。娘が、借用証書について口にすると、トーマスは マネージャーと話すよう言う。娘は トーマス「私の上司は、数年でパートナー〔共同経営者?〕になれるって」と話すが、その時、鼻血が出て来たので、ハンカチで拭う(3枚目の写真)〔コカインの長期的な鼻からの吸引は、鼻血の原因となる〕。自分も麻薬中毒だったトーマスは、これでピンときて、自分の二の舞かと失望する。

その時、玄関のドアを叩く音と同時に、ノアが 「ママ!」と叫ぶ声が聞こえる。娘が動けそうにないので、代わりにトーマスが 「頬を拭け」と言い残して玄関に行く。トーマスがドアを開けると、そこには、分厚いCDの束を持ったノアがいた。そして、「ぼく、あなたのCD 全部持ってます」と言って祖父に渡す。トーマスは階段にCDの山を置くと、最初の1枚を取り上げ、サインを始める(1枚目の写真、矢印はCD)。トーマスは、「『お祖父ちゃんからノアへ』と書いて」と頼むが、「名前しかサインせん」と言われる。サインを順番に書いてもらいながら、ノアは、「なぜホテルに泊まらないの?」と尋ねる。「一人でいたいから」。「ギターを習った時は、いくつだったの?」(2枚目の写真)。「ピアノから始めた。オヤジと一緒に、教会でオルガンを」。「もう亡くなった?」。「そうじゃないと思う」。そこに母がやって来て 「ノア、ラッキーだったわね」と言い、トーマスは 「そろそろ明日の用意をしないと」と、会見はこれで終わりだと示唆する〔相手が “娘と孫” とは思えない冷たい態度に終始〕。2人が出て行くと、トーマスはコートを着て雪原に出て行く。これが曲想を得るための “明日の用意” なのか? それとも、ただ、早く追い払いたかっただけなのか? そして、翌朝、モリーのスタジオに行き、親友同士のように抱き合う。そのあとは、トーマスが持って来た歌詞をもとにモリーが歌い始める(3枚目の写真)。確かに、トーマス1人では、シンガーソングライターになれないことがはっきり分かる。

前節最後に、翌日のスタジオのシーンを入れたのは、次の場面との間に1日経過したことを明確に示すため。トーマスがスタジオからの帰り、館の前に差し掛かると、妹の車が停めてあったので、“昨日来たばかりなのに” と驚く。そして、玄関から入ると、階段にノアがスマホを持って座っている(1枚目の写真)。「今日は」。「ここで、何してる?」。「ママはトイレだよ」。すると、母がトイレから出てきて、「ごめんなさい。フィリピン人がここで待っててもいいと言ったので。話し合いが必要なの」と言うと、ノアに聞こえないようドアを閉めてくれとトーマスに頼む。娘が、「電話すべきだったと思うけど…」と言い始めると、トーマスは 「止めろ。黙って、私の言うことを聞くんだ。勝手にやって来たり、ドアを閉めろと命じたりするな。どうした、何が欲しい? もっと金が要るのか?」と訊く。返事は意外なものだった。「上司は、私が病気だと言ったわ。明日の朝から6週間のリハビリに行かないといけないの。でないと、解雇される。会社の方針で」。「分かった」。「ノアは、明日一人で起きて、ちゃんと宿題をする」(2枚目の写真)。その言葉にトーマスはドキリとして 「待て」と言うが、娘は無視して続ける。「彼には父親がいない」。「いいか、私は働いている。スタジオでレコーディングしてるんだ」。「なら、私は解雇される」。「私は働いてる」。「じゃあ、私はどうしたらいいの?」。「私は働いている」。「母は亡くなって、他に誰もいないの」。「友だちぐらいいるだろ?」。娘は首を横に振る。「私はスタジオで働いてる。レコーディングだ。私にはできん。無理だ」。娘は、じっとトーマスを見つめる。その凝視に耐えられなくなったトーマスは、思わず、「Fuck」と英語で言ってしまう。それを、“了解” と解釈した娘は、「ありがとう」と言って、ドアを開けて出て行こうとする。トーマスは 「ダメだ、待て。そんなこと…」と言うが、娘はドアから出て外に向かう。次のシーンでは、館の外で、娘がノアに話しかけている。「これからは、決めるのはお祖父ちゃん。だから、ちゃんと従いなさい」(3枚目の写真)。「うん」。「ママはストレスが溜まっちゃったから、ストレスを解消しに行くの」と嘘を付くと、ノアを抱き締め、「愛してるわ。とっても」と言う。それを、少し離れてトーマスが見ている。それが終わると、娘は、トーマスにはもう何も言わず、車に乗って出て行く。

その夜の夕食。ピンポンは、それまでのトーマス用のメニューと違い、ノア用にも料理を作ってくれ〔鶏のもも肉のローストが5-6本〕、「食べて、可愛い子」と頭を撫でる。ノアは、さっそく1本皿に取り、「なぜ肉を食べないの?」と祖父に訊く。「人間にとって肉は大敵だ。破局につながる」と、ベジタリアンの食事を食べる。「僕、肉が好きだよ。ママは、いつもはあんなにストレスないんだ。昇進したし、大きくて新しいマンションを買ったんだよ。僕、アイフォンもらっちゃった」(1枚目の写真)。祖父は、「ママには、ストレスなんかない。麻薬をやってるんだ。コカインを」と真実を話す。すると、ノアは 「ママは、マリファナタバコも吸うし、錠剤〔エクスタシー?〕も飲むんだ」と話す。「ママは6週間 施設にいる。そしたら、解放される」。「閉じ込められるの?」(2枚目の写真)。「必ずな。そこにいると、気が狂いそうになる。出て行きたいと思う。だが、いないといけないんだ」。「いいママだよ」。「そうだな。肉を食べるんだ」。ノアが初めて館で眠る夜。祖父が、「お休み」と言って照明を消すと、「お願い、明かりは点けておいて」と頼む。スイッチをONにすると、「もう一つお願いがあるの。英語の本を家に忘れてきちゃった。箱の1つに入ってる」。「じゃあ、明日一緒に取りに行こう」(3枚目の写真)。「お祖父ちゃんは、どこで寝るの?」。「廊下の先だ」。「ドアは開けたままにしておいて」。いずれも、トーマスにとっては、これまで味わったことのない経験だ。

それから、何日後かは分からない。トーマスのアイフォンに母から電話が入る。「ママ? 僕 元気だよ。泣いてるの? もしもし? ママ? 何言ってるのか聞こえないよ。ママ?」(1枚目の写真)。そして、電話は切れる。麻薬の禁断症状でかなり異常だ。ノアは、ピアノで曲想を感じている祖父の前まで行くと、創作の邪魔になることなど考えもせず、「電話、切れちゃった。いつ、ママに会いに行けるの?」と訊く。祖父は、邪魔されたことに文句など言わず、「ママは、一人にしておかないと」とだけ言う。「ママは、僕に来て欲しくないの?」。「何か別のことをしたらどうだ? なぜ、何かしない? なぜ、そこに立ってる? なぜ、ギターを弾かない?」。「そんな気分じゃ」。祖父は、昔のことを話し始める。「私の父は豚みたいに飲んだ〔当然、酒を〕。踊ったり、喧嘩したり」(2枚目の写真)「彼は暴力的で、私をよく殴った。私が何をしたか分かるか? 音楽を聴いたんだ。サン・ハウス〔ミシシッピー・デルタ・ブルースの最も偉大な歌手の一人〕を聴いた。全てが消えた。素晴らしかった。演奏は下手だった。だが、何かがあった」。「僕も下手だよ」。祖父は、あまりにバカな返事に 「そういう意味じゃない。分かってないな。ギターを弾いて来い」と追い払う。

ノアが階段でギターを弾き始めると、音程が狂っているので、我慢できなくなったトーマスは、階段まで行く(1枚目の写真)。そして、「チューニングしないと」と言ってギターを受け取ると、調整しながら、「演奏は どうやって覚えた?」と訊く。「ギターに付いてたDVDで」。調整を終えてギターを返すと、「どんなコード〔和音〕を知ってる?」と訊く。ノアは音を出しながら、「GとCとD7」〔すべてメジャーコード〕と答える(2枚目の写真)。「マイナーコード〔暗い響きを持つ音〕は、ないのか?」。ノアは首を横に振る。トーマスは もう一度ギターを受け取ると、Aマイナーの弾き方を教え、ギターを渡すと自由に弾かせて、「リズムを作って、流れるように」と指導する。ここで、場面は変わり、モリーのスタジオで、レコーディングが始まり、モリーはノアを呼んで、正面のガラスの仕切り越しに トーマスが歌っている姿を見せる(3枚目の写真)。

ノアに頼まれて母の療養先を訪れた2人。療養所のある海岸の砂浜を歩きながら、ノアは、ギターのDVDを捨てたことを報告する(1枚目の写真)。そして、「新しいコード覚えたよ、Aマイナー、Dマイナー、Eマイナー」と自慢する(2枚目の写真)。そのあと、3人は施設内の喫茶室に入るが、テーブルの上には、コーラ1本(ノア)と、コーヒーカップ1個(母)しか置いてない。その状態で、母はノアに、「もう1本どう?」と、席を離れさせる(3枚目の写真)。そして、父トーマスと2人だけになると、「私、ここ嫌い。1人じゃ、どこにも行かせてもらえない」と不満をぶつける。「何とか乗り越えるんだ」。「ファミプロなんかがあるのよ。近親者と一緒のセラピー。施設じゃ やれって言うけど、誰に頼むの? 死んだ母? あなたどこにいた?」。「私がどこにいた?」。「私が小さかった頃、私のこと考えたことある?」。「あるとも」。「考えたことなんてなかったわ」。「なあ… 幸せな子供時代は戻らん。今は今だ。受け入れよう。私はそうしてきた」。「あなたの娘になりたいなんで、頼んでないわ」。「君の父になりたいと、頼んだことはない」。この言葉に怒った娘は、トーマスを何度も叩き、部屋から出て行く。ドアのところで、コーラの瓶を持ったノアは、びっくりして祖父を見ている。

モリーのスタジオでの短い、進展の見られないシーンの後、館の雪原の前でただ立っているトーマスが映る。少し離れた所では、ノアが雪だるまを作っている(1枚目の写真、矢印は “体” の部分)。ノアが大きな “頭” を “体” の上に苦労して乗せると、何を考えたのか、トーマスが足元の雪を集めて雪玉を作り、ノアにぶつける。ノアは、まさか祖父がと、びっくりしてトーマスを見る(2枚目の写真)。そこに、トーマスが2発目を命中させ、ノアも応戦を始める(3枚目の写真、矢印は雪玉)。トーマスは、施設で 娘から 「私が小さかった頃、私のこと考えたことある?」と言われたことを思い出し、ノアに対して “お祖父ちゃん” らしく振舞ってみたのだろうか?

あれから どれだけの日数が経過したのかは分からない。トーマスは、朝、ピンポンによってたたき起こされる。「お早う! ここに彼女いる! あなたの娘! 来て」。娘は施設から出られないハズなので、何事かとキッチンに行く〔当然、ピンポンが場所を教えたのであろう〕。「どうした?」。「私… 惨めなの」。「逃げたな」(1枚目の写真)。娘は 「最低の母親だわ」と言って泣き出す。「ノアの世話をすべきだわ。ちっちゃなノアの。もう、あそこにいられない。無理よ。ノアに会いたい。生きた心地がしない。家に戻りたい」。トーマスは 「君は、戻るべきだ」と たしなめる。「できない」。「できるとも。今すぐ戻らないと」。「できない」。「あと数週間じゃないか。ノアはここで元気だ。だから、やるんだ。戻るんだ」。「できない」。「いいや、できる。君にはできる」。「できる?」。「ああ、できる。やらねば」。「分かったわ」。娘は、涙を拭うと、「ノアには、こんなトコ見られたくない。黙ってて」と言い、トーマスは、「ここから出て行けばいい」と、キッチンの裏口を指す。そして、娘は指示に従って、裏口からこっそり出て行く(2枚目の写真)。再度、不明な日数が過ぎ、ある夜、トーマスとノア、モリーと孫娘(?)、マネージャーが、屋外の焚火に集い、トーマスの主導でノアがギターを弾き始める。ノアの演奏が順調に波に乗ると、2人の合奏に会わせてモリーが歌い始める。そして、最初のところを歌い終えると、モリーは、ノアに「ソロ」と声をかける。そこからは、ノアのソロ演奏に合わせてモリーが歌い、次第にスピードを上げて行く。それでも、モリーに合わせていけるので、ノアとトーマスは笑顔になる(3枚目の写真)〔ノアの笑顔は3回しか見られない(それほど不幸)ので貴重な瞬間だ〕

最後の平和なひと時。館の食堂には、トーマスとマネージャー、窓際にノアがいて、ピンポンがいつも通りの大声で、マネージャーに向かって、「カフェ、コーヒー、あなた?」と訊く。マネージャーは、ジュースのようなものを手に持っているので、「これでいいわ」と断る。ピンポンは次に 「可愛い子! そんなに掻く、ダメ!」と言い、ノアが、皮膚病か何かで腕をポリポリ掻き、傷になっているのを見て 「かわいそうな子! 良くない!」と心配し、トーマスに向かって 「医者、あれ、見ないと!」と言う。ノアが 「家にクリームがある」と言うと、「OK?!」と念を押す。マネージャーはトーマスに 「何なの?」と訊き、彼は 「クリームを取りにいかないと」と答える。ピンポンは、両手にチーズの皿を持つと、「もっと、チーズ?」と、さらに大きな声で訊き、反応がないので出て行く。マネージャーが 「彼女、すごい大声ね」と言うと、トーマスが 「そう思うか?!!」と大声で訊き、2人は笑い始める。トーマスはさらに、ピンポンの真似をして 「ノア! もっとヨーグルト?!」と大声で訊き、ノアは 「要らない」と普通に答える。しかし、トーマスはやめない。「パン?!」。「要らない」。「じゃあ、果物は?! リンゴとか?!」(2枚目の写真)。「ううん」。「ナシ?!」。「要らない」。トーマスは、冗談はこれでやめるが、ノアも笑ってしまう(3枚目の写真)〔ノアの2回目の笑顔〕

その日のうちに、トーマスは、ノアとマネージャーを車に乗せて、ノアのマンションに行き、クリームを取りに行かせる。場面は、ノアが戻って来ないところから始まる。マネージャーは、「ノアはクリームを取りに行ったんでしょ? 何してるのかしら?」と訊き、トーマスは、車のドアを開けてマンションのインターホンのボタンを何度も押して、ようやくドアが開く。「降りて来ないのか?」と訊いても、返事がない。そこで、エレベーターに乗って4階まで上がり、部屋の中に入って行き、「ノア、来い。行くぞ」と声をかけるが、ノアは祖父の方も見ずに、黙ったまま座っている(1枚目の写真)。そこで、トーマスは、「どうした?」と言って、居間に入って行くと、娘(ノアにとっては母)が、テーブルに顔を乗せて死んでいた(2枚目の写真)。それを見たトーマスは、ノアに向かって直ちに 「車にお行き」と言い、それでも動かないので、服をつかんで立ち上がらせ、半分死んだようなノアを(3枚目の写真)、押すようにして部屋から出し、「階段を使って車へ」と指示する。そして、ノアがいなくなると、自分が何もしてやれなかった娘に対する罪悪感から、壁に向かって嗚咽する(4枚目の写真)。あとで分かることだが、これは自殺ではない。随分あとで、マネージャーが、トーマスに 「The doctor says the drugs gave her a stroke(脳卒中)」と話す。問題は、“drug” には、麻薬の2通りの意味があること。の場合、依存症対策全国センターの「薬物依存症のための薬物療法」の項には、「ヘロインなどのオピオイド類の依存症の場合には、薬物欲求を緩和したり、薬剤使用時の快感を減じたりする有効な薬物療法があります(代表的な薬剤は、メサドン、ブプレノルフィン、ナルトレキソンです)」と書かれている。このうち、副作用の最も大きいメサドンの場合、過量投与による副作用は、「呼吸抑制、意識不明、痙攣、錯乱、血圧低下、重篤な脱力感、重篤なめまい、嗜眠、心拍数の減少、QT延長、心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、神経過敏、不安、縮瞳、皮膚冷感、無呼吸、循環虚脱等を起こすことがある」と書かれていて、心臓に負荷を与えても、脳卒中は起こしそうもない。一方、②麻薬の場合、MDMA(エクスタシー)について、「乱用により、痙攣や意識障害、脳卒中などを引き起こす」と書かれている。確かに、以前、ノアは、「ママは、マリファナタバコも吸うし、錠剤〔エクスタシー?〕も飲むんだ」と言っていた。しかし、麻薬を断つために施設に入っていた母が、なぜまたエクスタシーを飲んだのだろう。そもそも、施設にいるはずなのに、マンションにいたこと自体確かにおかしい。一度、施設から逃げてきてキッチンでトーマスに戻るように説得され、館から出て行った。ひょっとして、その時、施設に戻らず、マンションに行ったのかもしれない。そして、我慢した分だけ、余分に摂取して死に至ったのかも。

マネージャーは、母を失ったノアが心配なので、後始末はすべて自分がやるからと言い、トーマスにノアを連れてすぐ館に帰らせる。トーマスは、少し前にピンポンについてバカ話をした食堂にノアを連れて行き、テーブルに座らせ、マシュマロを5個前に置いて 「食べて」と言うと、話し始める。「君は、ママがなぜあそこにいたか知ってる。病気だった。コカインやその他の麻薬で」。そして、ここから自身の話に切り替える。「私もコカインを使ってた。たくさんだ。他にも、あるものは全て。体に入れられるものなら何でも。コカイン、アンフェタミン、酒、LSD、ヘロイン、覚醒剤、すべてだ」(1枚目の写真)「それは、素晴らしかった。それまで唯一無二の方法で、私の心に開いていた穴を満たしてくれた。他の人と話せるようになり、孤独を感じなくなった。神が撫でてくれた。しかし、それから病気になった。魂も、体も壊れた」(2枚目の写真)「ばらばらになり、孤独になり、被害妄想が襲う。誰も撫でてくれない」。それを聞いたノアは、母のことを想い、頭をテーブルに何度も何度もぶつける。トーマスが、「止めろ」と何度も言うが、止めようとしない。トーマスは立ち上がると、それ以上頭をテーブルにぶつけないよう、手で額の下に入れると、そのまま顔を起こし、苦しむノアを抱き締める(3枚目の写真)。それは、“祖父と孫” の関係が “他人行儀” でなくなりかけた一瞬だった。トーマスは、ノアをベッドに連れて行き、睡眠薬の錠剤を半分割って渡し、まだ放心状態のノアを眠らせる(4枚目の写真)。

恐らく、その日の午後、トーマスは、心配して館を訪れたモリーと、屋外で会う。「ノアは、まだ寝てる」。「ノアはどうなるの?」。答えたくないトーマスは、「私は行く」と言う。「行くって?」。「散歩に行く」。「一緒に行っても?」。「いいや」。そのあと、トーマスは、自身について語る。「私はずっとクリーンだった〔麻薬をやめた〕。6年間。シリアスでいようと懸命に働いている。激しく。常に。24時間。1日も欠かさず」(1枚目の写真)。「あなたが闘っているのは知ってるわ」。「ある日、破綻して闇がやってくるのを 私がどれほど怖れているか あなたは知らない」。「私は、あなたの友達よ」。そして、その夜、マネージャーが館にやってきて、前述の「The doctor says the drugs gave her a stroke」を告げた後に、トーマスは、モリーに話したようなことを言う。「私は、働きたい。学びたい。最高の仕事を続けたい。いいか?」。マネージャーに文句のあるハズがない。そのあと、ピンポンが、持ち帰ったクリームをノアの腕に塗るシーンがある。

母の葬儀の前のある日、ノアは、祖父に 「お祖母ちゃんが埋葬された時、僕スーツ着たよ」と話す。トーマスは 「大きな告別式にはならない… たくさんの人や記者が来るような。式は土曜だ。君と私だけ」〔なぜ、母の会社の人間は誰も来ないのだろう? 死ぬ前に解雇されたのか? そして、モリーとマネージャーは?〕。ノアは、「僕、花を持って行きたい」と言う(1枚目の写真)。そして、「火葬にするの?」とも訊く。「ああ」。土曜日。ノアは真っ白なカラーの花束を持って、祖父と一緒に 誰もいない式場に入って行く。そして、正面に置かれた棺の上に持って来た花束を置く(2枚目の写真)。ノアが祖父の隣に座るって僅か3秒で、自分が娘にしてきた仕打ち〔娘時代にかけなかった愛情、大人になってからの無視〕に耐えられなくなったトーマスは、「外で待っている」と言って席を立ち、ノアの顔はますます悲しげになる(3枚目の写真)。

式が終わった日(?)。館の寒々とした庭に、離れて佇む祖父と孫(1枚目の写真)。トーマスは、「戻るぞ」と言い、館に歩いて行く。しかし、しばらくして振り向くと、ノアが倒れている。トーマスは、走ってのノアの元に駆け寄ると、「ノア、どうした?」と声をかけるが反応がない。そこで、何とか抱き上げて、館まで走る(2枚目の写真)。そして、ソファに寝かせ、防寒具のファスナーを下げ、両手で顔を持つと、「大丈夫か?」訊く。ノアの最初の言葉は、「僕は どこに住むの?」だった。「家〔マンション〕にある僕の物はどうなるの?」(1枚目の写真)「僕、お祖父ちゃんと一緒に暮らすの?」。答えは、「分らん。いいか? 私はどうしたらいいか知らんのだ。ごめんよ」。

その直後の場面は、再ビ、モリーのスタジオ。モリーは、打ちのめされたノアを心配そうに見ている。一方、トーマス横に陣取ったマネージャーは、彼に報告する。「リハビリセンターは、ジュリー〔トーマスの娘〕の荷物を送りました。弁護士は彼女のマンションを売ってくれます。私たちが考えなければならないのは、ノアをどうするかです。親権に関する書類にサインする必要があります。家具は、彼が18歳になるまで保管されます。ここに、2つの立派な寄宿学校のパンフレットがあります」。そう言うと、マネージャーは2つのパンフレットを見せる(1枚目の写真、右の矢印がパンフレット、左の矢印はノア)。「私は学校に電話しました。好きな時に見に行けるそうです」。「分かった、ケイト」。ノアは、2人の方を見ているが(2枚目の写真)、途中にガラスの仕切りが入っているので、何を話しているのかは聞こえていない。

恐らく、その日の真夜中、上半身裸で、腰にタオルを巻いたノアが、祖父の寝室にやって来て、体を押して起こす(1枚目の写真)。「どうした?」。「怖いよ」。「何が」。「怖いんだ」。「明かりを点けて部屋に戻るんだ」。「ここで、一緒に寝てダメ?」。「自分の部屋に行って寝るんだ。ここでは眠れない。私は、他の人と一緒には寝られないんだ」。この言葉で、ノアは正直に打ち明ける。「ベッドを濡らしちゃった。毛布も」。「バスルームに行き、シャワーを浴びろ」。そう言うと、ベッドから起き上がり、一緒にシャワールームまで行く(2枚目の写真、矢印は洩らした後)。祖父は、ノアに自分で洗わせ、すべてが終わると、洩らしたベッドでは寝せられないので、自分のベッドで寝せる。そして、朝になり、先に目が覚めたトーマスは、ノアの寝顔をじっと見つめる(3枚目の写真)。そして、ベッドに腰かけると、じっと考え込む。

その日、モリーのスタジオで、トーマスの歌のベースとなる女性コーラス〔録音されたもの〕を聴いているトーマス(1枚目の写真、矢印はノア)。モリーに、「どお?」と訊かれ、「何も感じない。空っぽだ。ダサい。こんなクズ、聞くに堪えない。何も心に訴えない」と酷評。モリーは、トーマスの様子が変なので、自分の部屋に連れて行くと、トーマスは、死んだ娘のことを言い出す。「私は彼女を知らなかった」(2枚目の写真)「私は恥じるべきか? それとも悲しむべきか? もっと罪の意識を持つべきか? 君は、きっとそう思ってるんじゃないか? 『哀れなトーマス』か? それとも、ろくでなしか? 咎められるべきか? 不徳のいたすところとでも?」。「帰った方がいいわ。私たちのしてることを壊さないで」。それに対し、トーマスは、新しい歌詞での録音を求め、いざ始めようとするが声が出ない。というよりは、息ができなくなる。異常に気付いたモリーは飛んで来て、何とか呼吸をさせる。モリーがいて初めてトーマスが存在できることを示すシーン(3枚目の写真)。

館に戻ったトーマスと、マネージャーの重要なシーン。マネージャーは、レコーディングの延長を、「春頃になったら再開しましょう。あなたが立ち直り次第」と提案する。しかし、トーマスは 「延期はしない」と反対。「延期がベストだと思うわ」。「君は、私のマネージャーだ。言う通りにしろ」。「私は、以前、あなたを立ち直らせました」。「何が言いたい? 立ち直らせた? いったい何の話だ。君は私のマネージャー。単なるマネージャーだ」(1枚目の写真)。「あなたのマネージャーとして、録音を延期します」。「なら、君は、私のマネージャーじゃない。いいな、君は、今日限りクビだ。クビだ! 出ていけ!」。「ええ。じゃあ 明日 また雇って。いつもこの繰り返し。私は12年間 あなたをカバーしてきた、99年に立ち直らせてからずっと」。「君がやっただと? ホントか? くたばれ」。「私は、あなたをAAミーティング〔飲酒者の体験談を通して立ち直らせる場〕やNAミーティング〔薬物依存症の体験談を通して立ち直らせる場〕に連れて行き、奥さんにも嘘を付き、失恋したガールフレンドを慰めた。呪われた下着まで買った。だから、あなたが不適切な状態になった場合、私にはレコーディングのスケジュールを変更する権利があります」。「とっとと消える権利ならあるぞ! このレズのクソ女!! 出てけ!!」。マネージャーが、「ホント、真っ逆さまね」と笑顔で言うと、トーマスが頬を引っ叩く(2枚目の写真、矢印)。2人はじっと見合い、トーマスが 「出てけ」と言うと、マネージャーは無言で出て行く。その姿をノアに見られたことに気付いたトーマスは、マネージャーが服を畳んで出て行く用意をしている部屋を訪れ、「ノアは、行かないと。寄宿学校だ。電話してくれるか?」と言う。返事はない。「ケイト、何が望みだ? 謝罪か? じゃあしよう。悪かった。一線を越えてしまった」。それでも、無言。「なぜ、片付けてる? 出てっちゃダメだ。私のマネージャーじゃないか」。ようやく、マネージャーが口を開く。「私を叩いた」。「そうだ。叩いた。申し訳ない。本当に悪かった。私を助けて欲しい。君が必要だ」。「弁護士に電話します。寄宿学校にも。それだけは手配します。でも、それだけ」。それだけ言うと、マネージャーは、スーツケースを引いて玄関から出て行く(3枚目の写真)。

そのあと、トーマスは、ノアを食堂に呼び、「インターナショナル・スクールって知ってるか?」と尋ねる。ノアは、食パンにジャムを塗りつけていて答えない。「全寮制の学校は?」。無言。「ケイトが君のために寄宿学校の手配をした」。そう言うと、トーマスは、「私は、いつも家族がしていたように、飲む」と言いながら、ウィスキーをコップになみなみと注ぐ。「というか、飲まない。投げるんだ。踊ったり、歌ったりなんかしない。へど、小便、血で窒息するまで、酒をぶちまけたり、ドラッグを吸ったり…」と、昔のすさんだ時代の話をし始めるが、ノアがじっと睨んでいるので(1枚目の写真)、「そんな目で見ないで」と言う。トーマスは、何度も見るなと注意するが、ノアが止めないので、ウィスキーのコップを投げ捨て(2枚目の写真、矢印)、食堂から出て行く。トーマスは雪の森の中に入って行くと、自分の無力さに絶望する。その夜、モリーと会ったトーマスは、「私は国に戻る。ノアは寄宿学校に行く」と言う。「ええ、ケイトから電話があったわ。家でノアの話をしたの。ノアは、学校が休みの時、私たちと一緒にいればいい」(3枚目の写真)「クリスマスとか祭日、家族の週末なんかがあるなら、その時も」。「君は、いい人だ。私には、何もできない。誰にも、何も、与えられない」と、自分の無力さ〔やる気のなさ〕を語る。

そして、恐らく翌日、ノアが靴紐を結んでいるところに トーマスが自分のギターを持ってやって来ると(1枚目の写真)、「ほら、私のギターを持っていけ」と差し出す。「お祖父ちゃんのギターなんか欲しくない」。「これは、ミュージシャンが誰かを信頼している時にすることなんだ。ギターをその人にあげる。これは、私がこれまでに持っていた中で、一番きれいな音が出るギターだ。君に持っていて欲しい」(2枚目の写真、矢印はギター)「私は、国に戻る」。「うん」。「君は連れていけない」。「うん」。「寄宿学校だ」。「うん」。「君は、そこで幸せになれる。私よりも、ずっと幸せに。週末には、モリーの家族と一緒に過ごせる」(3枚目の写真)。

そして、ノアは、ピンポンと最後の別れをする。彼女の言葉は、「あなたは強い。食べること、忘れないで」だった。彼女に抱き締められてから、トーマスの車に乗り込む。そして、次のシーンでは、元マネージャーが選んだ寄宿学校に連れて行かれる(1枚目の写真)〔外観が映るのは、ここだけ〕。案内していく東洋系の事務員は、「君のクラスは授業中だから、部屋に荷物を置きに行こう。部屋は、アスムンド君と共有で、これからは 君も彼と一緒に授業に行くんだ。彼、君に会うのを楽しみにしてるぞ」と言いながら、連れていったのは、狭くて、ベッドと机と、壁に付いた小さな棚しかない、殺風景な部屋。祖父と孫は、2つのベッドの間で見合う。トーマスは、「モリーが電話する」と言うと、左手をコートのポケットに入れたまま、右手でノアを抱く(2枚目の写真)。ノアは、すぐベッドに腰かける。トーマスは、しばらく部屋を見ていて、アスムンドの片付けられていないベッドに腰かける。そして、最初の言葉が、何と 「これはひどい。これじゃダメだ。うまくいかん。ひどいな、ノア」だった。戸惑ったノアは、「何、話してるの?」と訊く(3枚目の写真)。

「私と来い。一緒に」。「何て?」。「私と来るんだ。こんなとこには、いられん」。あまりに異常な発言に、ノアは、「僕が知ってる最悪の大人だ。一人で城に住み、他人には無関心。悪口しか言わない。人を恐れてる」と、短い言葉を連ねて祖父を非難する(1枚目の写真)。「君が心配だ」。「ママがいなくて寂しい」。「もちろんだ」。「悪いママじゃなかった」。「そうだ」。「いいママだった」。「そうだ」。祖父はノアの前にしゃがむと(2枚目の写真)、「私と来てくれ」と頼む。「でも、ロサンゼルスに住んでるんでしょ?」。「私と一緒にロサンゼルスまで来てくれないかと頼んでる。ノア、私は君のお祖父ちゃんだ」。それを聞いたノアは、祖父の真心が分かり、目を閉じて、頭を祖父の額につける(3枚目の写真)。

デンマークでの最後のシーンは、コペンハーゲン向かう車が田舎道で停車し、2人が下りて、仲良く “連れション” する場面(1枚目の写真)〔なぜ、こんな場面が最後?〕。そして、場面は一気にロサンゼルスに。映画の冒頭と同じように幕が開き、トーマスが歌い始める(2枚目の写真)。舞台の袖ではノアがロスらしいフランクな服装で、祖父の歌を嬉しそうに聞いている(3枚目の写真)〔3回目の笑顔は、本当に幸せそう〕

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